KELVIN α2.5 ケルビン α2.5

  • 立ちはだかる業界の課題。
    塗料メーカーら各社の共同研究で突破口を探す。

    橋梁などに代表される国内の大型構造物はその多くが高度経済成長期(1970年頃)に建設され、今でも活用され続けています。これらの鋼構造物は時間の経過とともに腐食(鉄が錆びる現象)が進み、強度が徐々に低下してしまいます。そのため、腐食から構造物を守る手段として、防食塗装(塗料を鉄に塗ることで錆びから保護する)が繰り返し行われてきています。

しかしながら、塗装を繰り返し行うことによって塗膜はどんどん厚くなっていきます。また厚くなりすぎてしまった塗膜は徐々に剥がれやすくなるという特徴があります。そのため、建設後長い年月が経過し、塗膜が過剰に厚くなってきている国内の構造物は塗膜が剥がれやすく、腐食の危険にさらされています。
本来であればこのような構造物に関しては、これまで塗装した塗膜を一度全て剥がし、再度一から塗り直すことが望ましいメンテナンスとなります。しかし、塗膜を全て剥がす作業はとても大変で、従来のメンテナンス方法と比べ10倍近い費用と膨大な時間がかかってしまいます。そのため、同様の問題を抱える莫大な数の構造物全てをこの方法でメンテナンスすることは難しいのが実情です。
このような業界全体の問題に対し、本来であれば競争相手でもある塗料メーカーら各社が一致団結し、知恵を出し合いました。これまでの常識に縛られない「塗り重ねれば塗り重ねるほど、剥がれづらくなる塗料」という全く新しいコンセプトの塗料の開発。この商品の研究開発はここからスタートしました。

  • "線膨張係数"に隠された力。
    「防食業界に革命を起こす。」

    「塗り重ねれば塗り重ねるほど、剥がれづらくなる塗料」。このテーマの実現に向け、本格的に研究開発が始まりました。しかし、これまでの塗料の常識に反する全く新しい機能。社内で開発テーマを発表した時には否定的な声が多く挙がりました。「今までの通説に反する理論だ」、「剥がれづらくなる塗料として販売し、剥がれてしまったら責任が取れない」。これまでの防食塗料の当たり前と真っ向から相対する開発コンセプトですので、こういった反応は確かに当然だったのかも知れません。しかし、リスクを恐れて革新無し。当時の上司とともに「この技術が完成したら防食塗料業界に革命を起こせる。そして10年、20年先には防食塗料業界になくてはならない技術となる。」という熱い想いの下、周囲を巻き込みながら開発を推進していきました。

手探りの研究開発の中、試作した塗料はことごとく「塗り重ねれば塗り重ねるほど、剥がれやすくなる塗料」でした。数えきれないくらい様々な塗料を評価していく過程で、徐々に剥がれづらくなる塗料に共通する特性が見え始めました。それは"線膨張係数が低い"ということでした。
世の中に存在するほとんどの物質は、温めると膨張し、冷やすと収縮するという性質を持っています。このように温度の変化に応じて物体の寸法が変化する現象を「線膨張」と言います。膨張・収縮の大きさは物質ごとに異なり、ある物質の温度が1℃変化した時の寸法変化を表す数値が「線膨張係数」です。
有機物である塗膜は、無機物である鉄と比べ線膨張係数が遥かに高く、伸び縮みしやすいという特徴を持っています。塗膜の線膨張係数を低くし、なるべく鉄の線膨張係数に近づけることにより、「塗り重ねれば塗り重ねるほど、剥がれづらくなる塗料」が実現できることが分かってきました。

  • 未知との戦いの中から
    自分たちで切り開いた道

    これまでにない全く新しい塗料を開発することは、想像を超える苦労の連続でした。基盤となる塗料設計技術が社内はおろか、世の中に存在しないためです。部署の垣根を越えて様々な部署と連携・協力してもらいながら、まずは線膨張係数に影響を及ぼす配合上のパラメータを影響度ごとにまとめ、目指すべき塗料配合を体系的に整理することにしました。幸いにもそれまでの検討で膨大な数のデータが揃っていたので、それらを様々な角度から解析し影響度マップを作成することで、良い傾向を示す塗料配合がどのようなものか、徐々にわかってきました。

でき上がった塗料はこれまでの塗料とは似ても似つかないものであり、線膨張係数は低いものの、防食塗料に求められるその他の性能はひどい出来栄えでした。当時の塗料を試験的にお客様に塗装してもらった時は、「塗りにくい。こんな塗料塗れるか!!」と酷評され、ひどく落胆したことをよく覚えています。また、工場の生産設備で塗料試作を行った時にも工場の配管を詰まらせてしまい、他塗料の生産工程に支障をきたすなど、生産部門の方々にはとても迷惑をかけました。「設計し直しだな。次に期待しておくよ。」関係する人々の厳しくもあたたかい声に支えられ、諦めずに何度も何度も失敗を繰り返しながら検討を進め、徐々に塗料の完成度を上げていきました。ついに塗料が完成した時には2年近い月日が経っていました。この塗料開発から得られた経験は、技術者としての今後の人生において替えるもののない貴重な財産になっています。

  • 挑戦から得られた大きな成長。
    世の中に認められたことで新商品は誕生した。

    完成したこの塗料を『ケルビンα2.5』と名付け、いよいよ販売を開始しました。ケルビンα2.5はこれまでにない全く新しいコンセプトを持った塗料のため、まずは世の中にこの塗料の機能や価値を知ってもらわなければなりません。そこで、共同研究を行っていた各社で協力し合い、学会発表や論文投稿、マスメディアを利用した宣伝活動を活発に行いました。また私自身も、お客様への製品プレゼンを幾度となく実施しました。

その結果、徐々にケルビンα2.5の知名度は上がっていき、構造物のメンテナンスに関して困りごとを抱えていたお客様からお問い合わせが殺到するようになりました。また、実際にケルビンα2.5の効果を目の当たりにしたお客様からは、感謝のお言葉をたくさんいただきました。
特に印象に残っている事例として、ある個人住宅の屋根の塗替塗装にケルビンα2.5を適用いただいた事例があります。その住宅の屋根は築50年が経過し、度重なる補修塗装の繰り返しによって塗膜が厚くなりすぎており、何度補修塗装を行ってもすぐに塗膜が剥がれてしまうような状況でした。塗装業者の方も、お金はかかるが塗膜を全て剥がしてからでなければ、補修のやりようがないと諦めかけている状態でした。しかし、その住宅に暮らしているのはご高齢の単身女性で、補修塗装にお金をかけられず、何度も塗り替える事は難しいという事情がありました。なんとしてでもご希望に沿いたいという塗装業者の方からお問い合わせをいただき、ケルビンα2.5が塗装されることになりました。
その結果、塗膜の剥がれはピタッと止まり、今現在もきれいな塗膜が屋根を腐食から守り続けています。お住まいの女性からも感謝のお言葉をいただき、自分の開発した塗料がお役に立てたことを嬉しく感じるとともに、これまでの苦労が報われた思いでした。

2019年には、防食塗料業界が抱える問題に対してケルビンα2.5がもたらす優れた効果と価値が評価され、一般社団法人色材協会が主催する「2019年度色材研究発表会」にて「技術賞」という権威ある賞を受賞しました。
また、ケルビンα2.5を正式にご採用いただく件数も年々急増しており、標準塗装仕様としてご指定いただくケースも多数出てきています。
もはやケルビンα2.5の塗料技術は全く新しい革新的なものではありません。防食塗料業界の当たり前になりつつあるこの技術を生み出すことができた背景には、世の中のニーズに応えるカスタマーファーストな塗料を作りたいという強い想いと、それを実現する高い技術力、そして社内・社外の垣根を超えたチームワークが大きく存在しています。挑戦することで成長を遂げる。まさにそんなプロジェクトになりました。